オレンジ

ビールの炭酸が腹にたまったので、次は焼酎に切り替えようかと思ったけれど、やめた。
今日は金曜日。
一週間の疲労がたまっているせいだろうか、いつもよりも酔いが回るのが早いことを俺は自覚していた。

「眠いの?」
「んー…ちょっと」
「あ、ごめん。拓真くんじゃなくて、ショコラがね」

なんだよ、またショコラかよ。

俺は少し、面白くない気持ちになる。

「ショコラばっかじゃなくて、俺にも構ってよ」

俺はそう言いながら、彼女の髪をひと束、軽く引っ張った。
男物のシャンプーからは決して香らない、甘い匂いが鼻先を掠める。

「…やっぱり、酔ってる」

彼女はその首を振り向かせて、少し困ったような表情で俺を見た。

顔が、思った以上に近くて俺は一瞬ドキッとする。


「うん、少し。でも平気」

酔っているせいで顔が熱いのか、それとも至近距離で見た彼女の顔がそうさせたのか。

「お水、飲む?持ってくるよ」
「あ、うん。サンキュ」

彼女はそう言って冷蔵庫からミネラルウォーターを取ってきてくれた。
そしてまた、床に座る。
ショコラは眠くなったようで、もうとっくに自分のベッドに戻っているのに。


「なんで?ソファに座りなよ。床、硬いじゃん」
「…ありがとう。でも、大丈夫」

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