オレンジ

言葉通り、彼女は食器を洗ったらすぐに、そそくさと帰る支度を始めた。

嫌われているわけではないことはわかっているし、それなら、彼女がそういう気持ちになるまで待つつもりでいた。
彼女は俺をどうやら、すごく大人の男だと思っているようだから。
実際はガキだけど、年齢だけなら彼女より大人なのは確かだし、焦った感じで迫るようなことはしたくない。
それはきっと、彼女の期待を裏切ることになる。
そう言い聞かせて、いつもこうして終電に間に合うように部屋を出る。

「じゃあ…お邪魔しました」
「うん。行こっか」

それでも、玄関に座りサンダルのストラップを留めている彼女を後ろから見ていると、やっぱりまた、寂しさが胸に広がる。
このまま朝までずっと、一緒にいれたらいいのに。
やるやらないとか抜きにして、彼女はそんなふうには思わないのだろうか。
終電のことなんか気にせずに、俺のそばにいたいとは思ってくれないのだろうか。

急にそんな不安が押し寄せて、俺は立ち上がった彼女を後ろから抱きしめた。

一瞬やっぱりびくんと小さく、その細い
肩が揺れたのがわかった。

「どうしたの…?」
「マジで帰るの?」


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