オレンジ
「ひど…!笑うとこじゃなくない?」

彼女が眉を吊り上げて言う。

「…だって、いや、ごめん。でも…そんなことだったの?」
「そんなこと!?」
「早く言ってよ、そんなん」
「言えないよ!恥ずかしいじゃん!!」

ますます赤くなった顔を隠しもせずに、彼女は声を張り上げる。
その必死さが可笑しくて、俺は更に笑ってしまった。
高校生のときに彼氏がいたと聞いていたからもうとっくにそういうことも済ませているのかと、俺は勝手に思っていた。


「恥ずかしくないよ、別に。俺は嬉しいけどな」

そう言いながら俺は、彼女を抱きしめる。

彼女は、今度は振りほどかない。


「やっぱり、終電で帰るの?」

抱き締めたまま耳元に囁くと、彼女は言った。

「…もう間に合わないってわかってるくせに…」
「…うん」


俺の胸から顔を上げ、微かに潤ませた瞳で軽く睨みつけるかのように見上げる彼女と、視線が交わる。

どちらからともなく、まるで最初からそうすることを示し合わせていたかのように自然な流れで、唇が重なった。






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