オレンジ

あたしの瞳からひとしずく、涙が伝った。

「え、泣くの!?」
「…泣いてないよ」

人前で泣くのなんか大嫌いなのに、自然と零れてしまった涙を隠そうと、あたしは布団へ潜り込んだ。

あたしは今、幸せだ。

彼が布団をめくる。

見上げると、少しだけ不安そうだったけど、あたしの涙がもう流れていないのを確認してすぐに笑顔に戻った。

そして、彼もあたしの横に寝そべると、もう一度、言ってくれた。


「大好きだよ」
「…うん」
「えー?うん、じゃなくね?こういう時はさぁ」

不服そうにそう言う彼に、あたしは小声で呟いた。


「…あたしも、好き」


やっぱりこうして冷静になると、恥ずかしい気持ちが勝ってしまう。
彼の目は見られなかった。
可愛く言えない自分が嫌になるけど、そんなあたしを彼は抱きしめてくれた。


「やっと、聞けた」
「え?」
「彩乃ちゃんの、じゃないや。彩乃の口からちゃんと好きって言ってもらったこと、なかったから」
「…ごめん」

はは、と、彼は笑う。

「いいよ、別に。最近ちょっと、わかってきたし。恥ずかしくて強がってるけど、本当は可愛いとこいっぱいあるよね」
「…そうかな」
あたしは照れて、また目を逸らす。

「うん。たとえばー…あ、ほら」


そう言うと彼は、抱きしめていた手を離してあたしの首の下へ左腕だけを移動させた。

「腕まくら。して欲しかったんでしょ?」
「…なんで?」
「さっき離したとき、すげぇ寂しそうな顔してんだもん、だって。おやすみ」

あたしの考えとか、感じたことは、どうやら彼には筒抜けらしい。
それならきっと、今のこの幸せな気持ちも、彼を愛しく想う気持ちも、ちゃんと伝わっている、筈だ。

あたしも、初めての相手があなたで、よかったです。



ちゃんと、伝わっていますように。


そう想いながら、目を閉じた。
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