オレンジ
cross road〜takuma〜
今日こそは、終わらせよう。
何度、そう思ったんだろう。
「ミナミ」
そう呼んでも、返事はない。
今も変わらず、よく彼女に懐いているショコラはその足元を離れようとしない。
俺のマンションからほど近いこの公園は、まだ俺たちが付き合っていた頃によく連れ立って散歩に来た場所だ。
ショコラを連れて。
「おい、ミナミってば」
ブランコの横に設置された、このベンチに座って缶コーヒーを飲むのが定番だった。
俺はブラック、彼女はブルーマウンテン。
ミナミは相変わらず黙り込んだまま、遠くを見つめている。
その眼差しの先の砂場には誰もいない。
誰かの忘れ物の小さな青いプラスチックのシャベルが寂しく転がっている。
俺の言葉なんてまるで耳に入っていないみたいに、彼女は呟く。
「懐かしいな、ここ。よく来たね」
「…うん」
「ショコラもまだ小さかったのに。しばらく会わないうちに、こんなにおっきくなったのね」
そう言って愛おしそうにショコラの頭を撫でる。
その左手の薬指には、シルバーのリング。
小ぶりだけどしっかりと埋め込まれたダイヤの石がキラリと光る。
「当たり前だろ。別れてどんだけ経ったと思ってんだよ」