オレンジ
暇してた、って言ったのに。
と思ったけれど、ぐっと飲み込んだ。
暇だから、1人でドライブでもしてたかもしれないし。
何か用事があったのかもしれないし。
そう言い聞かせてはみても、脳裏には助手席に座る、あたしじゃない誰かが勝手に描き出される。
あたしはそれを振り切るみたいに、わざと明るい声を出した。
「じゃあ、待ってる!渋谷、どのくらいで来れる?」
「すぐだよ。15分くらいかな」
「わかった。じゃあ、TSUTAYAにいる」
「了解。また掛けるわ」
TSUTAYAに入ると、あたしは深呼吸をした。
胸に手を当てて、深い息を吸うと、スタバから流れてくるコーヒーの香りが少しあたしの心を落ち着かせてくれる気がした。
大丈夫。
拓真は、大丈夫。
あたしを傷つけたりしない。
あたしは繰り返し、呪文のように自分に言い聞かせる。
あたしを裏切り、違う人を好きになった優弥。
それが、蓋をした筈の心の奥底から湧き
出てきて、拓真と優弥の姿が、いつしか重なるー
その映像を遮断したくて、あたしはひたすら呪文を繰り返していた。