オレンジ
過去〜takuma〜

彩乃の様子がおかしいことには、すぐに気がついた。
そもそも、今日は陽菜ちゃんと久しぶりに会うから、たぶん夜まで遊んでると思う、と言って出掛けたのだ。

「でね、陽菜はそっちのピンクのほうが似合うって言ってくれたんだけど、店員さんは黒のほうがいいって。迷っちゃって、結局両方とも買っ…」
「彩乃」

彩乃は普段、決して口数が多い方ではない。
その彩乃がこんなに饒舌に喋る時は、大抵何かを隠している。
照れ隠しでそうなることもあれば、学校であった嫌なことを口に出すまいとそうしていたこともあったし、風邪気味なのを隠していたこともあった。

「どうした?」
「え?」
「なんかあったんだろ?」
「なんかって?」
「…いや、わかんないけど」
「どうしてそう思うの?」
「よく喋るから。急に会いたいなんて言うし」
「いけなかったかな?」
「いけないとかじゃなくて」

彩乃は、俺の方を見ない。
なんか、怒らせたかな。
と思わせる態度だけど、俺にはその心当たりがない。
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