オレンジ
北風〜ayano〜
「急で申し訳ないんだけど、今日、お店に来なくていいわ」
「え?どうしたんですか?」

全ての講義を終えて、あたしは今まさにSMILYへ向かおうとしていた矢先の電話だった。

「…ちょっとね。臨時休業」
「え?あゆみさん、大丈夫ですか?」

昨日もシフトに入っていたあたしは、「少し頭痛がするの」と、鎮痛剤を飲んでいたあゆみさんの姿を思い出した。
風邪でもひいたのだろうか。
いずれにしても、臨時休業だなんてあたしがバイトを始めてからは初めてのことだ。


「うん。ありがとう。大丈夫よ」

あゆみさんの声はいつもと同じように穏やかだ。
あたしは少し安心する。

「体調、悪いんですか?」
「うん、ちょっとだけね」
「あ、でも、そしたらあゆみさんは帰ってもらっても大丈夫ですよ?今日高橋くんもシフト入ってましたよね?」
「そうなんだけど、今日は朝から体調良くなかったからケーキもいつもほどの数が焼けなかったのよ。もうなくなっちゃいそうだし、お客様にも申し訳ないから今日は閉めちゃおうと思うの」
「…そうなんですか。それじゃあ、仕方ないですね」
「そういうわけなの、ごめんね」
「いえ、お大事にしてください」
「ありがとう」

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