オレンジ

あゆみさんにしては珍しいな、と思いながら電話を切った。
少しぐらい風邪気味でも、お店を休むことなんてなかったのに。
声を聞いた限り、そんなにしんどい様子ではないように思えたけれど、あれは無理をしていたのだろうか。
バイトがなくなって、突然暇になったあたしは時間の使い道に困ってしまった。

陽菜に声をかけようかと思ったけれど、昼休みに会ったとき、陽菜もあまり体調が良くないようなことを話していた。
最近急に涼しくなったので、気温の変化にみんな身体がついていっていないのだろう。

買い物はこの前したばかりでお金もないし、拓真はまだ仕事だ。
今日のところは大人しく帰ることにしよう。

と、思ったところでふと、あることを思い出して、カバンの内側のポケットを探る。


拓真と、夏休みが終わる直前に行ったディズニーランドで買ってもらった、くまのプーさんのキーホルダー。
そこには3つの鍵がぶら下がっている。

ひとつは、もちろん自分の家。
そして、あゆみさんがあたしを信用して預けてくれている、SMILYの鍵。

もうひとつは、つい最近ここに加えられたばかりの、拓真の部屋の鍵だ。
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