オレンジ
宅配便か何かだろうか。
拓真はよく、ネットの通販を利用しているのを知っているから咄嗟にそう思った。

それくらいなら代わりに受け取ってもいいかな…
拓真への来客に、あたしが勝手に出てしまうわけにもいかないかな、やっぱり。


あたしは迷いながら、とりあえずインターホンの通話口へ向かった。

そこにはモニターがあり、今まさにインターホンを鳴らした相手が映し出されている。

宅配業者の制服姿ではないことは、遠目にもすぐ確認でき、女性のシルエットがあたしがモニターに近づいていくごとに、少しずつくっきりと輪郭を露わにしていく。

モニターまで数センチという距離で、あたしは目を見開いた。


もう一度、インターホンが鳴る。

あたしはその音を確かに聞いていながら、モニターから目を離すことも、インターホンの通話ボタンを押すこともできない。


二度呼び出しても応答がないので、モニターの前でかすかに首を傾げながら、彼女はーあゆみさんは

携帯を操作し始め、そこで映像は途切れ、あたしの鼻先にあるのはただの真っ黒な液晶になった。

ほんの1分くらいの出来事。

だが、たしかにあれはあゆみさんだった。


間違い、ない。

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