オレンジ

「でも、なんで?早くない?」

昨日、どうしてもショコラを預かりたいとミナミに頼まれた。
2〜3日でいいからと懇願され、俺はそれを受け入れたのだ。
そもそも、元はと言えばミナミが欲しがって買った犬なのだから、そこまで頼まれて無理に断る理由もなかった。

「それがね、諒介が怖がるのよ」
「え?」
「生まれてから今まで、近くで直に動物に触れたことなんて殆どなかったから、あの子。慣れたら平気かと思ったんだけどね、全然ダメなの」

俺は思わず笑ってしまった。
旦那のみならず、息子まで犬嫌いときたら、ミナミは離婚しても息子が独り立ちするまでは大好きな犬を飼うことができない。

「笑うなんてひどい。これでもあたし、結構ショックなんだから。離婚したら、飼えると思ってたんだけどな」
「そりゃまぁ、仕方ないわな。犬より息子だろ、そこは」
「…そうだけど。でね、今、拓真の家まで来ちゃったの」

予想外の言葉に、俺は不意を突かれた。

「え?」
「実はあたしも少し風邪気味でね、ショコラとろくに遊んでもあげられなくなっちゃったから可哀想で。せめて早く拓真のとこに帰してあげようと思ったんだけど」
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