オレンジ
言われてみれば、いつもより少し鼻にかかったようなミナミの声。

「…なら、メールとかくれたら良かったのに。わざわざ具合悪いのに無理しなくても、俺が迎えに行くし」
「…それはそうなんだけど…」

ミナミの言葉は歯切れが悪く、まだ何か言いたそうだ。

「なに?」
「…いきなり押しかけちゃったら、部屋に入れてくれたりしないかなって。ちょっとだけ思ってた」

そう言って、ミナミは電話の向こうでくしゃみをした。
口元から電話を離したようで、その音は遠かったが。

「それはできないって言ってんじゃん」
「どうして?」
「だから彼女が…」
「彼女がいるから他の女は部屋には入れたくないっていうこと?」
「…そうだよ」
「そっか。前はあたしの部屋でもあったのにね」
「………………」

出て行ってたのはお前の方だろ、という台詞が出そうになるが、寸前のところで飲み込む。
それを言ったところで堂々巡りなのは目に見えているからだ。
ミナミと再会してから何度同じようなやりとりを繰り返してきたことか。

通りがかったコンビニの前に灰皿を見つけて、俺は立ち止まりポケットから煙草を取り出し火をつけた。
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