オレンジ
こんなもんか、と俺は思う。
初めて合鍵を使ったことを、彩乃だったらもっと大袈裟にアピールしてくるかなとなんとなく思っていたが、やけにあっさりとしているので拍子抜けしてしまった。
でも、まぁ、それだけ慣れてきたってことかな、と俺はひとりごちながら、つい習慣でビールを取り出そうと冷蔵庫の扉を開けて、気付いた。
車でショコラの迎えに行かなければならないことを。
そのつもりで部屋まで帰ってきた癖に、不意打ちの彩乃の訪問で一瞬忘れてしまっていた。
俺はミネラルウォーターを取り出して飲みながら、彩乃にどう言って一度家を出るか考えた。
下手な嘘では、彩乃も一緒に行くと言い出しかねない。
俺を1人で行かせてくれて、なおかつ彩乃が不審に思わない理由でなくてはならないとなると、なかなかいい案が浮かばない。
「ねぇ」
「ん?」
「ショコラ、どうしたの?」
「あぁ…ちょっと、友達に預けてて」
「どうして?」
彩乃は、鍋から手が離せないのだろうか、背を向けたままで話す。
「なんか、こないだその友達がうちに来たときに、ショコラのことめちゃくちゃ気に入っちゃってさ、そいつんちの子が。で、どうしても少しだけ預けてくれって」