オレンジ
咄嗟に出てきたにしてはなかなか自然な理由だと思えたが、彩乃は納得しなかった。

「なんであたしに言ってくれなかったの?」
「え?」
「そりゃショコラは拓真の犬かもしれないけど、あたしだってここに来るとき、ショコラにも会えるの楽しみにしてるんだよ。一言くらい言ってくれてもいいじゃない」
「…ごめん」

彩乃は確かにショコラを可愛がってくれているが、そこまでとは思っていなかったので俺は素直に謝る。

それきり彩乃は返事をしない。
さっきの彩乃の声にはかすかに刺々しさも滲んでいたが、黙ってショコラを他人に預けたというだけで、多少不機嫌にはなったとしても、さほど怒るほどのこととは思えない。

「…彩乃」

俺は、俺の方を見向きもせず、ぐつぐつといい匂いを漂わせている鍋にじっと向き合ったままの彩乃の背後に立つ。

「なんか、怒ってんの?」
「なにが?」
「…だから、なんか」
「なんかってなに?」

彩乃はやっぱり、ちらりともこちらを見ようともしない。
その口調は、かつて聞いたことがないほど冷淡に俺の耳には響いた。

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