オレンジ
「…別に、怒ってないけど。それともなんか、怒らせたかもと思うようなことでもしたの?」
彩乃はそう言いながら鍋の火を止めた。
それを見て、寒くなったら鍋がしたいから、卓上コンロを買おうと話していたことを思い出す。
前まであった卓上コンロは、ミナミとよく使っていたものだったから、俺が使いたくなくて捨てたのだった。
勿論彩乃はそんなことは知らない。
単純に俺が独り身で、自炊もほぼしないからないのだとでも思っているのだろう。
「そんなことないけど。なんか彩乃が…変っつーか」
「どこが?できたよ、ご飯。食べよ」
彩乃はそう言ってようやく振り向いたが、目は合わせようとしないまま食器や箸なんかを用意し始めている。
明らかに様子がおかしい彩乃の態度に、俺は胸騒ぎを覚える。
彩乃は何時からここにいたのだろうか。
さっきの電話でミナミは、部屋を訪れたと言っていた。
…まさか。
心臓の鼓動が速度を増すのを自覚しながら、いや、落ち着けと自分の胸に言い聞かせる。