オレンジ
こんな気まずい静けさの中で飲むビールはちっとも美味くない。
ただ、苦味だけが喉に残った。
彩乃の作ってくれた料理は、いつも通り美味しい筈なのに、それさえも色褪せてしまうような、長い沈黙。
そんな沈黙の中では、マナーモードにしている携帯のバイブもやたらと大きく主張する。
出どころは、俺のデニムのポケット。
ミナミからの催促の電話に違いない。
「鳴ってるよ、携帯。拓真のでしょ」
「…ん」
「出ないの?」
「…後でいいや」
「どうして?」
「いや、今飯食ってるし、別に急ぎじゃないだろうから」
「携帯見てもないのに、そんなことわかるんだ?」
そう言うと、初めて彩乃は俺を見た。
詰問するような眼差しで。
「…彩乃。何が言いたいの?」
「なにって、別に。言った通りだけど」
そう言うと彩乃は小さく、ごちそうさま、と言ってまだ半分以上中身が残っている皿と箸を手に、立ち上がるとキッチンへ向かう。
「もう食わないの?」
「うん。あんまり食欲ないみたい。ごめんね、あたし帰るから、あとは拓真食べて」