オレンジ
そう言うと彩乃は、シンクに皿を置いただけですぐに自分の身なりを整え始めた。
ジャケットを羽織ると、料理をするためにひとつに束ねていた髪の毛をおろし、手ぐしでざっと整えるとバッグを持つ。
いつも必ず、洗い物まできちんと終えてから帰る彩乃の、必要以上に機敏な帰り支度をボーッと眺めていたが、彩乃がリビングを出て行く背中を見てようやく俺もふと我に返り、追いかけた。
「待てよ」
後ろから、その細い手首を掴むと一瞬身構えたのがわかった。
「言いたいこと、あんだろ?」
俺は、ズルい。
隠し通せる訳がないのはわかっていた。
いつかこんな時がくることも、恐れながらもどこかで覚悟していた。
今までバレないのをいいことに、散々ズルズルと甘えてきた結果がこれなのに。
いざこんな局面に陥ってなお、俺はまた彩乃に甘えようとしている。
自分から言い出すべき問題の筈なのに、最初に言葉にすることを彩乃に託してしまっている。
自分から申告して、自分の言葉で傷つく彩乃の表情を見る辛さから逃げている。
そしてそれを彩乃に言わせることで、彩乃から責められる俺という構図をつくることで、自分が楽になろうとしている。
俺は、ズルい。