オレンジ
そう思っていながらも、しかしどこかで、彩乃に対する苛立ちも覚えている。
彩乃はいつだってそうだからだ。
言いたいことを言わずに、心のうちに隠しておく癖がある。
その癖、態度までは隠せない。
だから俺がいつも先回りして、聞いたりする。
俺がそうしているから喧嘩にこそならないものの、俺も気付くことなくそのまま過ごしていたとしたら、俺たち2人の関係はとっくに破綻しているだろう。
言わなくてもわかってほしいというのが女心というやつなのかもしれないが、それは無理だ。
男の俺からしたら、言ってくれなければわからない。
仮にわかったつもりでいたとしても、本当のところはやっぱり本人の口から言ってもらいたいのだ。

ただ、いつもは彩乃の不機嫌の理由が俺には見当さえつかない場合が殆どだが、今回に限定して言えばほぼわかりきっている。
それでも俺からそのことに触れないのは、この期に及んでまだかすかな期待が消えないからだ。

ミナミのことなど全く関係のない、他のことが原因なのではないかと。
と、言うより、そうであってほしいという、俺の願望だ。

しかし彩乃の口から出た言葉は、俺のひとりよがりなその願望を一瞬で打ち砕いた。


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