オレンジ
会わせてよ、って言われてもなぁ…。
そう言った陽菜の、悪戯っぽさを含んだ笑顔を思い出しながら、あたしは携帯の画面をスクロールする。
「や行」のアドレス帳を表示すると、
まだ見慣れない名前がひとつ、そこにある。
結城 拓真。
陽菜は
「だって、彩乃がそんなに言うならあたしだって実際確かめたいじゃん?本当に怪しい男じゃないかどうか!」
って言っていたけど、本音は違う。
あたしを心配してくれているのも全くの嘘ではないだろうけど、陽菜はおそらく彼の外見を見てみたいのだ。
単純に、好奇心で。
あたしにしてみても、彼の外見に騙されている…という気が、しなくもない。
めちゃくちゃイケメン!超絶美男子!
とまではいかないけれど、「ストーカー」なんて単語に結び付けるにはちょっと憚られるくらいの爽やかな雰囲気は持ち合わせていた。
もしも彼の外見が見るからに不潔そう、とか、なにか少しでもマイナスな印象を与えるようなものだったとしたら、もし
かしたらあたしはそれだけで、何の証拠もなくストーカーのレッテルを貼っていたのかもしれない。
やっぱり、外見がいいと得だと思う。
画面に表示されたこの名前をタッチすればそれだけで、彼と通話をすることはできる。
「会いたい」と一言そう伝えれば、たぶん彼は会ってくれるんだろう、とも思う。