オレンジ
でも、「会いたい」には理由が必要だ。
友達とか恋人とか、「会いたいから」という理由が通用しない相手に、会いたい思いを伝えるにはどうすればいいんだろう。
ましてや、「知り合い」かどうかすら怪しいくらいの間柄。

やっぱり…
あたしからの「会いたい」を言うのは難
しいよ。
ごめんね、陽菜。
だってあたしには、彼に会う理由がないんだもん。


心の中で陽菜に謝りながら、携帯をしまおうとしたそのとき、バイブが鳴った。


「篠原あゆみ」

バイト先のカフェの店長だ。
店長とは言ってもとても30代には見えない若さと美貌の持ち主で、プライベートなことも何かと相談に乗ってもらったりと姉御的存在。
なので親しみを込めて、あゆみさんと呼ばせでもらっている。

「もしもしあゆみさん?どうしました?」
「あぁ彩乃ちゃんごめんね、お休みなのに。今大丈夫?」
「大丈夫です。道路なんでちょっとうるさいですけど…」
「悪いんだけど、今からお店出てもらえないかな?諒介が熱出しちゃってね。今日お昼頃に保育園から連れて帰って来て
今は旦那が診てくれてるんだけど…旦那がね、今日は夜勤なの」

諒介くんはもうすぐ4歳になるあゆみさんの息子で、あゆみさんの旦那さんは消防士だ。
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