オレンジ
あゆみさんの手作りケーキが好評なカフェ「SMILY」は、うちの大学とあたしの家のちょうど中間あたりの駅に面した通りにあるこぢんまりとしたお店。
大学入学したての頃に、大学周辺をブラブラあてもなく歩いてみたり、定期圏内の駅で途中下車してみたり、なんてことをしていたらたまたま見つけた。
カントリー調で揃えられた内装が可愛くて、そのとき食べたアップルパイが物凄く美味しくて、あたしはたちまちこのお店を気に入り、通うようになった。
そのうちにあゆみさんが顔を覚えてくれて、話しかけてくれるようになった。
ちょうど大学に入ったばかりでバイトを探しているというあたしの身の上話をしていると、トントン拍子でここでバイトをすることが決まって今に至る。
まだ、バイトを始めてからは二ヶ月。
ここのケーキが美味しいから!と連れてきた陽菜をバイトに誘ったのはあゆみさんだった。
「あー彩乃ちゃん!ごめんね、せっかくお休みだったのに」
「いえいえ。暇だったんで気にしないでください」
「ほんっとごめんね。さっきまでゆかりが来てくれてたんだけどあの子も忙しくて、さっき帰っちゃったの。あとはもうすぐで、高橋くんが来てくれるから」
ゆかりさんはあゆみさんの妹で、たまにお店が忙しくなると手が空いていれば手
伝いに来てくれる。
ゆかりさんとはたまにしか会わないので、あまり詳しい話はしたことがないけど融通がきく仕事らしい。
高橋くんはあたしと同い年のバイト仲間だ。
普段、大体3人でお店を回しているけど
こういう緊急事態には2人のこともある。
「高橋くんも来てくれるなら大丈夫です。こっちはまかせてください。諒介くん
、お大事に」
赤と白のギンガムチェックのエプロンの紐を後ろ手で結びながら言うと、あゆみ
さんは「ありがと!」と早口で言いなが
ら、小走りでドアを出て行った。