オレンジ
in the night〜takuma〜
「ただいまー」
手探りで玄関の電気のスイッチを押す。
「おかえり」
とまではさすがに言ってはくれないが、俺が鍵を開ける音を聞きつけると同時に玄関まで走ってきて、ちぎれそうなくらい尻尾を振り回して出迎えてくれる、唯一の家族の頭を撫でる。
「いい子にしてたかー?わかった、飯な、飯。はいはい」
靴を脱いで、ドッグフードが置いてある場所に向かう俺の後を、舌を出して荒い息をしながらパタパタとついてくる。
「待ってろって。ほら。お座り」
ショコラに餌をやり、水も取り替えてやってから、冷蔵庫の発泡酒を一本取り出して煙草に火をつけた。
「はぁー…」
煙草の煙を吐く動作に、ため息が混じる。
不意に、デニムのポケットの中で携帯が震えた。
煙草をくわえたまま、携帯を見る。
メールだ。
「わざわざ家まで送っていただいて、ありがとうございました。無事、帰りましたか?」
ありがとうございました、の後に笑顔の絵文字が添えられている以外、そっけない文面だ。
だけどついさっき、車を降ろす直前に、俺が「電話だけじゃ不便だから」と、今更交換したアドレスなのに、先に向こうからメールを寄越すとは予想外だった。
「うん。着いたよ。こちらこそありがと。また連絡します」
内心は絵文字満載気分だけど、俺ももうそんなに若いわけでもないし、軽そうに見られるのも嫌だから自重する。