オレンジ
一緒に観たのは、ちょうど最近公開されたばかりのラブコメディ。
2人でひとつのキャラメルポップコーンを摘まみながら、同じシーンで笑い合った。
あたしはメロンソーダ、彼はコーラを飲んでいた。
「俺、映画の時は絶対コーラなんだよね。なんとなくなんだけど」
と彼が言った。
「あたしも。あたしも、映画の時はなんか絶対これにしちゃうんです」
そう返しながら、思い出していた。
ブルーハワイと、イチゴミルクのこと。
たぶんあの時、彼も同じことを思い出していたと思う。
けれど2人とも、そのことは口には出さなかった。
映画を観ているときに、一瞬だけ気付かれないように、こっそり横顔を盗み見たときに、あたしは確信した。
やっぱりもう、好きになってしまっていることを。
「彩乃ちゃーん、ちょっと」
ピカピカに磨き上げたショーケースを眺めながら、ボーッとそんな想いに耽っていると、厨房からのあゆみさんの声で我に返った。
「なんですか?」
厨房を覗き込むと、あゆみさんが手招きをする。
「お茶にしない?お客さんもいないし、ちょっとだけ」
作業台の上には、アップルパイとアイスティーが2人分用意されている。
「うわぁ、嬉しい!」
焼き立てのアップルパイの香ばしい香りが鼻をくすぐる。
冷蔵庫の横に立てかけてある折り畳みのスツールを取り出すと、あたしたちは2人、横並びで座った。