俺と初めての恋愛をしよう
週末には久しぶりに実家に帰ることになっていた。
正月以来実家には帰っておらず、連絡もしない親不孝な娘だ。いつも今日子の様子を心配していた。今日子が思いつく家族の顔は、いつでも今日子を心配している顔だった。
だが、それはもう終わりだ。
後藤にも心配顔をさせてばかりだったが、それも終わり。
前向きなスタートを切るのだ。

「行ってくる」
「いってらっしゃい」
「気を付けて行くんだぞ」
「はい、あ、それと……」
「夕飯は適当に食うから心配はいらない」
「すみません」

いつものようにキスをする。
出勤していく後藤は、もう心配顔はしない。スッキリした顔で出て行くその男は、今日子の愛する人となった。
毎日、毎日、理解できない我儘を言われるが、それも悪くはない。
正直になった今日子は、植草と久しぶりに会った。
付き合ったことのない今日子は、後藤が要求することが当たり前なのだと思っていた。
植草は後藤に頼まれていたように、今日子と恋愛の話をした。普通の女ならば、ごく当たり前に話す彼氏の話だ。今日子にはその相手が、植草しかいない。

「服を着させるの!?」
「あ、はい。変なんですか?」

亭主関白というほどの事ではないが、後藤は今日子に世話をされるのが好きだ。
一時もそばを離れたくないと言うのもある。
週末の家事に追われているときは、終わるまで機嫌が悪い。
スーツとシャツ、ネクタイを選び後藤に着させる。その時の満足そうな後藤の顔は、笑ってしまうほどだ。そんな男が、会社では大勢の部下を従え、仕事をしていると思うと、別人なのではないかとさえ思う。
大きな子供がいると思えば、苦でもない。

「あきれちゃうわ」
「先生は旦那さんにどれくらい?」
「自分のことは自分で。だって共働きなんだし、子供がいれば、女の方に負担が大きくなるでしょう? 平等はどう考えたって無理。だから、世話をするのは、子供だけ、旦那は知らないわ」

今日子は納得したようにうなずく。確かに自分の母親を見ていてもそうだった。

「林さん、付き合ってあげて。とにかくお願いするわ。その代わり、なんでも強請ればいいのよ、服でもアクセサリーでも」
「そうですね」

そんな話をしてから、今日子は後藤の行動が笑えて仕方がない。
半面、いつでも今日子を愛してくれていると感じられることばかりで、暖かい気持ちにもなっている。
ずっと家族以外の接触を拒んできた今日子が、いきなり同棲を始めて今でも不安はある。ずっとこのままじゃない、無理して暮らしている訳じゃないが、他人との生活には、ある程度の気遣いが必要だ。それをため込まないようにと思っている。

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