俺と初めての恋愛をしよう
過去をさかのぼって思いすように話す今日子に、後藤は耳を傾ける。じっと聞くことに徹した。

「一緒に住むようになると、自分の不出来さを見て嫌われたくないと思うようになりました。私はいろいろなことに不器用で、効率よくできません。一人でいるときはそんなことどうでもよかった。誰も私を評価する人なんていませんから。週末になると、パジャマのまま一日を過ごして好きなだけ好きなことをしていました。それが出来ない。一人にもなれない。それはあなたも一緒なはず。私が外に出ればあなたは一人の時間が持てる。でもそれをどうしたらいいのか分からない。きっと買い物に出ると言えば、優しいあなたは手伝いで来てくれる。それがずっと気持ちにのしかかって、苦しくなってしまいました。正直、くだらない悩みですが、私には苦しかった」
「そんなくだらないことで悩んでなんて俺は言わない。だけど、何で俺に行ってくれないと怒ってる。ずっと何か悩んでいることはわかってた。これからずっと一緒にいるのに、何も言ってくれないのは少し冷たいぞ?」
「ごめんなさい」
「俺は、お前のすべてを受け止められる。だから結婚まで考えた。不器用で、人付き合いが出来なくていいじゃないか。俺しか頼れる人間がいないんだ。それでいい。今日子が何でも一人で出来たら俺の出番がない。友達なんかいなくていい。俺しか見なくていいんだ。今日子は俺だけみてろ」
「強引ね」
「そうだ、今さらだ」
「そうでした」

話せば、こんなに簡単に解決できることだった。人に頼らず生きてきた弊害なのか、今日子はそのことすら知らなかった。

「これからはケンカもするでしょうね。私が言うようになったら」
「そうだな、それもいい」
「ええ」

冷たくなった夜風が、今日子の体温を奪う。後藤はそっと今日子を抱きしめた。

「仕事は切り上げたんですか?」
「ああ、というより、部下に振ってきた」
「そうですか」

一つ一つこうして二人で解決していけばいい。
悩みがあるのは自分だけじゃない。自分だけが酷くかわいそうな女になるのはやめよう。少しそうしたところがあったかもしれない。
少しづつ今日子の世界が開けている今、これからもっと今日子を悩ますことが出てくる。その時は、一人じゃない。後藤がいる。
強く優しく抱きしめる後藤の胸の中で、心からそう感じた。


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