俺と初めての恋愛をしよう
やってくれたと、顔をしかめた。そして、ガクッと頭をうなだれた。
後藤は何食わぬ顔で今日子の隣に座る。
それに合わせたかのように、他も腰かけた。

「君たちは今日子と仲良くしてくれているようで、ありがたく思っている」

今まで機関銃のごとくしゃべっていた女たちは、黙りこくった。

「そんな君たちに報告がある」
「ちょっと!!」

放心状態だった今日子も、なにを言い出すのか悟って、後藤の袖を強く引く。
その手を取って、後藤は強く握った。

「今日子は、年度末に退職することになっている。理由は結婚するためだ」
「え~~!!」

一斉に声を上げた。その声の大きさに、周りの客が一斉にこちらを見る。
そんなことも気にせずに、佐々木をはじめ女子は後藤に質問攻めをする。

「いつから付き合ってたんですか」
「結婚式は?」
「いやだ~」

早く帰るようにと言っていたが、後藤の登場にさらに盛り上がり、おかわりを注文している。
テーブルにおかわりが追加されると、よくわからない乾杯が始まった。

「部長、本社勤務になってから付き合ったんですか? だとしたらスピード婚ですよ~」
「いや、転勤前だ」

今日子は後藤をじろりと見た。また嘘を吐いからだ。だが、この嘘は許される。今日子も、佐々木達にはつい最近だと思われたくなかったからだ。
評判高い男を捕まえたと言われるのも、嫌なものだ。

「地味で目立たなくすれば、安心だ。分かるだろ?」
「林さん、急に変わったのはこれだったんですね。ずっと地味さが勿体ないと思っていたんですよ、美人でスタイルもいいのに、勿体ないなあって」

ねえ、とそれぞれが納得している。

「悪いんだが、今日子が退職まで、このことは黙っていてくれないか? 周りが気を使って仕事がやりにくくなるだろう? 悪いな」
「もちろんです!」
「さあ、それを飲んだら帰りなさい。ここの支払いは済ませてある、割り勘にしようとしていた分をタクシー代にしなさい。駅から自宅までは必ずタクシーで帰るんだ、いいな」
「は~い!!」

今日子と後藤の熱い話を聞き、更にアルコールが回っている女たちは、子供の用に手を挙げて返事をする。

「皆さん、お先に失礼します。お疲れ様でした」
「お見送りします!!」

後藤と今日子が店を出て、道にあるパーキングまで一緒に行く。
後藤が車のドアを開け、今日子をエスコートすると、キャー、キャーと声がした。
後藤が車に乗り込み、エンジンをかけて車を出すときに、送りに出た女たちに挨拶のつもりか、クラクションを一回ならすと、走り出した車の中に聞こえるくらい大きな声で、「ごちそうさまでした!」と発した。

「俊介さん、どうして迎えになんか?」
「女子会と聞いたからな、報告するにはいいと思ったんだ」
「良くしてくださる佐々木さん達に、いつ報告しようか迷っていたんです。皆さんより早く報告したかったのですが……びっくりしたけど、良かったかも。ありがとう」
「いいさ、礼なんか。帰ったらたっぷりもらうから」

いつものたくらんでいるようなにやけ顔で、今日子の手を取った。
運転する顔は正面のまま、今日子の手の甲にキスをする。
いいことを沢山してくれるのに、いつもこうなると呆れてしまうが、許してしまう。
暖房が入っている車内は、身体が火照っている今日子には少し暑い。
車のウインドウを少し下げて、冷たい空気を入れる。
週末の道路は意外と混んでいて、車のテールランプが綺麗だ。
流れる車のランプを見ていたら、瞼が重くなった。
今日子は、安心のため息を一つ吐いて、瞼を閉じた。





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