やさしい色

「あ」


 声が重なる。

 下はジャージー、上をロングTシャツという、見てるこっちが肌寒くなるような恰好で、
 しかし入栄本人はそれすらも鬱陶しそうに、上げられるぎりぎりまで袖を上げて、鼻に浮いた汗を拭う。

 その目が柊の手許に移動した。

 可愛らしくデコレーションされた箱に目を留めるなり、ぱっと見開いた。


「それ、もしかして俺に!」

「うん、そう」


 柊の答えに、入栄は、おや、という顔をした。


「俺に、だよね?」

「そうだよ」


 ますます入栄は不思議そうな顔つきになって柊を凝視する。


 彼女の声や目からは、彼が当然向けられるだろう熱や戸惑い、急な訪いに対する慌てぶりや恥じらい、あるいは喜色でもいい、そういったものが微塵も感じられないのだ。

 怪訝そうに近づいてくる入栄に、どうしてそんな顔をされるのかわからない柊はちょっぴりたじろぐ。



「そうだよって。じゃあ―――はい」



 今度こそ柊は困惑した。

 お手のように、やおら入栄が自らの手を差し出したのである。

 訊ねる眼差しを送ると、入栄はようやく、2人の間に食い違いがあることに気づいたらしい。

 咳払いをして、入栄は逆に柊に訊いた。


「ときに吉崎さん。その盛りに盛った飾りのチョコレートは、誰から?」


 柊は暫し頭を捻る。


「えと…………たしかあの子は二組の、放送委員で―――」

「あー…」


 入栄は手を上げて柊を制した。




「うん、わかった、そこまでで……いいや」


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