やさしい色
「持ってきたの、ついさっきだよ。それにしてもすごいね」
チョコの山を目で示すと、うんー、と入栄は気のない声で応じた。
プレゼントたちにはほとんど目もくれずに通り過ぎ、入栄は自分の机を覗き込んだ。
何かを探すようにしながら、
「吉崎さんからは、ないんだ?」
「え?」
取りだしたノートで、どうしてか入栄は柊の額をぺちんと叩いた。
「え、じゃないよ。チョコですよ。チョコ。チョコレート。今日は何の日? チョコの日。バレンタインの贈り物は?」
「へっ」
「へっ」
空気が抜けたような柊の間抜け声を、入栄は大仰な顔真似も一緒に真似してみせた。
柊は唇を歪める。
「意地悪」
「いじめたくもなる」
拗(す)ねたように言って、入栄は僅かに顔を逸らした。
ちらちらとこちらを窺う眼差しがどこか恨めしそうで、柊は反応に困った。
「……俺、だって吉崎さんからチョコもらいたいって、今日1日そればっか考えてた。
ずっと期待してたんもん」
柊は目を剥いた。
だがすぐに思い直す。
「またまた」
笑って、入栄の横を通り抜けようとして、いきなり手首を掴まれた。
声を上げる間もなく力任せに引き寄せられ、気づくとすっぽり腕の中、後ろから抱きしめられる恰好で収まっていた。
(―――!?)
糸の切れた間抜けなマリオネット―――
窓、眼球が飛び出しそうなほど瞠目したまま硬直する自分の姿が映る。
首の根元に入栄の吐息が触れた瞬間、全身に電気が走ったようだった。
柊は金縛りが解けたようにもがいた。
入栄の腕から逃れようと精一杯、身を捩(よじ)った。