やさしい色
けれど、もがけばもがくほど意に反して彼の拘束は強度を増して、やがて、抵抗すらできないほど頑丈に隙間なく抱き込まれた。
それが彼にとっての仇となったのか、それともそうさせたくてわざとこんな強引な行動に出たのかはわからない……
圧するように触れ合う、固く、厚い、鍛え抜かれた胸の奥から、やたらたくましい拍動が伝わってくる。
はやい。
どくどくと、胸を押し上げるように烈しい鼓動はたぶん、彼の平脈ではないだろう。
だとすれば―――。
それが示すだろう意味が脳裏を過ぎり、柊はおもわず息を呑む。
(緊張……? ううん、それとも)
恐怖―――?
窓越しに合った彼の目は、柊の疑念を裏付けるかのように揺らいでいた。
常の自信と明るさに裏打ちされた曇りのない光が不安げに揺れている。
つられて柊の心までもがさざ波のごとくふるえた。
切ない瞳。
「……好きな人が、いるの」