やさしい色
「2人を見送るときの目が、すごい、つらそうだった。羨ましそうっていうより、しんどそうだった」
……そう、しんどかった。
一所懸命いい友だちを演じるのがものすごい気疲れで、しばらくは顔を上げられないくらい憂鬱で、それでも抜け出せない自分が馬鹿みたいで寂しくて、すごくすごく、くるしかった。
「……チョコレートを渡してって、頼まれたの……彼女から。
今日中に渡したいけど、無理だからって」
ほんとうなら柊だって和眞にチョコレートを送りたい1人なのだ。
頼まれた運び役ではなく、正々堂々と―――とはいえ、恋人がいる以上はどうしたって横槍なのだが―――わたしからだと告げて、渡したいのに。
気持ちを受け取って欲しいのに。
無理だとわかっていても。突き返されるとわかっていても。
友に気兼ねして渡せないだけならまだ堪えようもある……。
強いて親切一心のふりをしてチョコを渡さねばいけない役回りなど、現在進行形で邪心と格闘し、ともすれば顔に出そうになる柊には拷問以外のなにものでもなかった。
ミナに悪意も他意もないのが逆に、余計に残酷で……
柊は気持ちのやり場がない。
「…………もう、やめたい」
声に嗚咽が滲んだ。
……それは本心であり、本心ではなかった。
和眞くんを想い続けること―――。
友を偽り続けること―――。
報われることのない恋をずるずると追いかけて何になる……。
流す涙は心を強くするのではなく、流すだけ脆く、爛れさせるばかり。
昼休み、危うく和眞に気づかれかけた……。
柊への疑心が彼の目つきを変えた。
柊の割り込む隙のないことを告げる無言の圧力が重くのしかかって、息が止まった。
かつては確かに感じられたはずの彼の"その気"は、もう微塵も感じ取ることは出来なかった―――。