やさしい色


「俺が、ここにいる」


 囁いて、入栄はふっと腕を緩めたかと思うと、いきなり柊の身体の向きを変えた。

 向かい合うと、背中に感じていた熱いくらいの体温がとたんに惜しまれ、恋しくなって、柊は戸惑った。

 先ほどまで、彼からの想いを受け止める資格が自分にはないと自らを戒め、じたばたしていたくせに。


 入栄は同じ言葉を繰り返した。



「俺がいるでしょ……」


 気持ちに嘘はつけなかった。


 もう、駄目だと思った。



 彼の気持ちを受け入れたいと、その瞬間、柊は自らの欲望をはっきりと認識してしまった。


 潤んだ瞳を直視できなくて、柊は半ば、まぶたを下ろす。



「俺は、吉崎さんを悲しませたりしない」



 そんなことはわかっている。

 夏のバス。クリスマスのバラ。


 そして、今。


 彼は無条件にわたしに優しさを与えてくれる。

 だからこそだ……。



「……わたしがどういう人間か、入栄くんは知らないから」

「吉崎さん」


 小さく息を1つ吐き出して、柊はずっと胸の奥に秘めてきた許されざる罪を、いま、はじめて他人に吐露した。


 柊の目から光が消える。




「わたし―――中学のときに一度、友だちの彼氏を誘惑しようとした……」


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