美容師男子×美麗女子
妙ににやにやしながら、千尋の家に着いた。
今日はお店の表口からじゃなくて、裏口から。
入ったらすぐに階段があって、それを上る。
「入ってて」
階段を上りきった2階に、いくつかの部屋があった。千尋は1番奥に入るようにあたしに言った。
人の部屋に勝手に入っていいのかな、なんて思いながらあたしはドアを開けた。
当たり前だけど、千尋の匂いがした。
髪から匂うのは、これか。あと、千尋の染み付いた甘い匂い。
鼻に神経を集中させていたら、足で何かを踏んでしまった。
「痛っ!?」
下を見てみると、プラスチックのネイル。
拾い上げると意外にも軽くて、固い。
片付けろよ、と思いながらあたしは部屋を見渡した。
よく言われがちな、“簡素な部屋”ではなかった。
決して、シンプルな部屋ではない。そう、イメージと真逆。
あたしの背よりも高い棚には、女の子が読みそうな雑誌とか、美容関係な本ばっか。
それどころか、たくさんの箱の中には化粧道具が入ってる。
まさかあいつ女じゃないよね、ってくらい。
部屋の隅に置かれたベッドと、何も置いてない机だけが唯一普通なもの。
「ごめん、待たせた」
千尋が入ってきて、電気をつける。
カバンを適当に置いて、千尋はベッドに座り込んだ。
どうしよう、さっきから思ってたことを、千尋に言いたくて仕方無い。
言っちゃおうかな、でも傷付くかな。
でも、言いたい。
よし、言おう。