青のキセキ
翔に面と向かって聞かれた俺は返事に詰まった。

すぐに『愛してる』と答えられない自分に改めて罪悪感や嫌悪感を覚えた。


かといって、綾を嫌いな訳ではない。


大学時代、綾はその容姿でかなり目立っていた。綾を初めて見たときは、いい女だと思ったのも事実だ。

俺もモテない方じゃなかったから、大学に入るまでにも何人かの女と付き合ったし、年相応の経験もそれなりにしていた。

大学に入学し、翔とつるむようになってから、女と付き合うよりも野郎同士でいる方が楽しくなって、特定の彼女を作るのをやめた。


大学3回生でゼミが始まり、綾と翔と同じグループになった。

グループで集まることが多くなり、必然的に綾と過ごす時間が増えた。


付き合うようになって、勝ち気な性格の綾に惹かれた自分がいた。


結婚後、俺を支えてくれたのは綾だ、俺も綾のために頑張ってきたつもりだ。


なのに、綾に裏切られた。知ったときはムカついたし、離婚も考えた。でも、単身赴任で寂しい思いをさせたのは事実だし、なかなか子どもが出来ずに苦しんでいた綾を責めることは出来なかった。


それ以来、俺と綾の間に溝が出来たことは否めないが、お互い努力はしてきたつもりだった。


本社勤務に戻り、マンションを借りてからも俺なりに頑張ってたつもりだったんだ。


綾に『仕事と私のどっちが大事なのか?』と言われた時、俺の中で何かが弾けたというか、気持ちが冷めたというか、目が覚めたというか……。



美空と出会って、少しずつ惹かれた自分がいた。


弱々しくもあり、凛とした部分もある彼女が好きになった。

何かに怯える彼女を守ってやりたいと思った。

今日も、美空のことばかり気になって、綾が俺に触れたりするたびに心の中で『やめろ』と呟いていた。


綾には申し訳ないと思う。


でも、美空を想う気持ちに嘘はつけない。


「今の俺は、綾よりも美空が大事だ」


翔に告げると、翔はやっぱり…というように口角を上げる。


「とりあえず、綾にマンションじゃなく、家の方に帰るように言わなきゃな」


俺が綾に言いに行こうとすると、翔も着いてきた。


「俺も一緒にいた方が、綾も何も言えないだろう?」


綾を心底嫌ってる翔に、聞いてみる。


「翔は俺を裏切った綾を嫌ってるけど、今の俺は綾を裏切ってる。綾のしたことと、俺が今していることは同じだ。それをお前はどう考えてんだ?」


「あ?それとこれとは、別なんだよ」



???


別?


どういう意味だ?







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