孤独の戦いと限界
〜昼休み〜
〜屋上〜

悲しみが今もひどく、食欲が全くなかった俺は、屋上に出てごろ寝した。
仰向けに寝て、無表情な大空を見ていた。

何も考えたくない‥。
このまま、永遠に眠りたいよ…。

…‥


『!!!、……ふぅ』

悪夢ばかり見てるなぁ…。
荒い息を整え、額の汗を拭う。
しかし、随分寝てしまった。


『んんっ!』

辺りは雲の狭間から夕焼けが出ている。
少し曇って雨が降りそうだけど、そんな事より‥

…ヤバイな、授業をサボっちまった。


『………』

まぁいい、帰ろっと…。
教室に戻り、鞄を取りに戻った。


〜教室〜

流石に誰も…‥

『!っ、藤先生…』


仁王立ちしている姿に、たじろぐ。


『‥授業をサボって何処にいてたんだい?』

『…屋上で寝てて、気付けば夕方でした』

『全く…。でも血色が良くないな、熱でもあるんじゃないのか?』

『藤先生…、友美の事で何か聞いてます?』

『あ〜、納得。元気がないのはそのせいか』

『………』

『口止めされていてな、特にお前には』

『…、なんでだよ』

ため口を叩いたが、藤先生は気付かないふりをした。

『まぁ辛気臭い顔しないで、元気な姿で妹を見送ってやれよ』

…妹?、恋人だよ。恋人が遠くに行くんだぞ。


『…帰りますね』

『他の先生には上手く言っておくから』

『……どうも、です』

…‥


俺は校舎を出て公園に向かった。今の状態ではとても友美と話せる余裕がない。

精神を安定させてから…

『兄さん』

…話をしたかった。
やられた‥、校門で待ち伏せとは。


『授業サボったね』

『屋上で寝過ごしたんだ‥』

『へぇ〜、さぞかし夢見が良かったんですねぇ』

友美は真面目だから、やはりサボりに対しては妥協を許さない。


『駄目だよ、サボりは!』

『寝過ごしたんだから…、俺もサボってやろうと思った訳じゃない』

『じゃあ、次からしないでね』

『………』

『兄さん!』

家路から外れ、公園に足を向ける。


『何処へ行くの?』

『気分転換しに…』

『じゃあ私も兄さんと…』

『来るな!』

『えっ…』

『………』

『………』

自分の中では、考えを全く整理しきれていない。
今は、本当に誰とも会いたくない。


『すまない、俺は精神を安定させたい…。友美を見てるとツラくなる』

『………』

『先に帰っててくれ』

『…ごめんね兄さん』

…‥


〜公園〜

《ポツポツ…‥》

にわか雨が振り出した。
だが、雨宿りする気もない。今では雨に濡れた方が心地よく、心を無にする事ができる。


『せっかく幸せになれると思ったのに…』

『これから幸せになれると思ったのに…』


びしょ濡れになった手に拳を作り、その手を見つめる。
握った手には何もない。

ようやく掴んだ幸せもまた、何もなくなったのだ。

やり場のない悔しさ、悲しみを雨と共に過ごした。

『どうあがいても、俺の人生はこんなのばかりなんだろうか…』

友美は、人生の一歩を踏み出したんだ。
だが、今の状況では素直に喜べない。
恋愛を失う前では、そんな事は微塵も感じないよ…。

深い悲しみだけが体内でくすぶり、また唐突さに今もまだ戸惑っていた。

『……ちくしょう』

…‥


〜自宅〜


友美は荷造りを済ませ、居間でTVを見ている。

その荷造りを見ていると、現実が襲い掛かり目を背け、自分の部屋に駆け込む。

〜自室〜

『ふぅ…』


友美と一緒にいたい。
叶わない想いだけが、空振りを繰り返し、一層心痛を倍加させる。


く、苦しい…‥

《コンコン》


『………』

『兄さん、下に来ないの?』

『…疲れてるから』

『兄さんの部屋に行っていいかな?』

『…、ダメだ』

『……兄さん?』

‥、聞こえなかったか?


『…いいよ』

《カチャ》

『!、兄さん!?』

『……何だよ』

『顔色が悪いよ、大丈夫?』

『…何ともない』

『…私が…‥』

『?』

『私が黙ってたから?』

『………』

『…ごめんね』

『…俺は思ったより繊細な性格らしい』

『………』

『友美が人生を歩み出す事は理解できるよ。でもまだ愛したりないんだ。俺はまだ恋愛が足りないんだ』

『………』

『恐らく、襲い掛かる失意は自分の試練なんだろうね。けど愛し合う時間は充分に欲しかった』

『………』

『愛し合う時間が…』


正直なところ友美には、どこにも行かないでほしいと叫びたくなる。

だが、単なるワガママで恋人の人生を変えるわけにもいかない。


『………』

ワガママ、なのだろうか…。愛し合う事の出来ない人生なんて、何の意味があるのだろうか…


『…もう休むよ、部屋から出てくれ‥』

『…うん』

…‥

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