孤独の戦いと限界

『友美さんなんて顔色が真っ青に…、…って、ちゃんと聞いてるの!?』

『…ああ』

心労が悪化しそう…
誰か助け舟を…。

少し意識が‥

『あっ…』

…飛ぶ。

『あっ…って、いやらしい声を出さないで下さい』

………………
……………
……違うんだよ…‥

『おかえり』

『あれ、多田さん…、俺はひょっとして意識が…』

疲れで気を失ってしまったんだろうか…。
ああ、怖かった…。

『久しぶりに沢山会話して疲れたみたいね』

『…そんな事ない。それより現世にいるんだろ。どこに住んでるんだ?』

『………』

『現世ではどこにいるんだ?』

『私は…』

しかし睡眠モードに入れて良かった…。これでようやく安静に休める。

『あれ?』

『?』

『あれれ?』

何故か睡眠から戻る様な錯覚に陥る。

『どうしたの?』

『………』

解らない、何だろ…
俺の身体に異変が…

…〜…〜…〜…〜…

『…う〜ん』

『兄さん!、兄さん!』

友美が激しく揺さ振る。
しかも全力で。

『さっきまで起きてたんだけど、どうしちゃったのかな』

『と、友美…、落ち着いて…』

『宮川さん、あまり揺らしちゃ…』

『こらこら、そんなに揺らしちゃ駄目だよ』

看護婦と医師も、強く注意する。
点滴をぶら下げる棒かけが、ガチャガチャ鳴り響く。
…〜…〜…〜…〜…〜

『………』

?、ゆらゆらする…‥。

『しんどいの?』

『いや、大丈夫』

でも、恐かった…
やっぱり恵理も怒ることはあるんだな。

『…宮川君』

『ん?』

『‥嘘をついた、ごめんね。実は私、現世にはいないの』

『…と、いうと?』

『…死んじゃったの、その、言いづらかったけど』

『………』

睡眠状態なのに、感情が働き胸が窮屈になる。
何があったんだ…

『包み隠さず教えてくれ。何があった?、死因は?』

『自殺を…』

『…そう、か』

『…驚かないの?』

『勿論ショックさ。でも珍しいものじゃない。日本は年間3万人以上の自殺者を出してる異常国家だからね。危うく、俺もその人数に加わるところだった』

『…わりと冷静ね』

『寝てるせいでアクションがないだけだ。それより動機の方が気になる。なぜ自殺を?』

『…レイプされて、ショックでそのまま…』

『!、……』

胸にズキンと鋭い痛みが走った。
野蛮な奴らめ…、少女の一生をめちゃくちゃにしやがる…。

『………』

『…怖かったよね。助けに行けなかった自分が憎いよ』

『男にとって、女性はなんだろうね…。甘い理想なんて存在する事なく、白馬の王子様なんていないのに…』

『………』

『白馬の王子様なんて…』

『………』

『…あなたにとって、女性はどういうものなの?』

『俺にとって女性とは、精神の癒しだと思う。その癒しを永続的に受けていたいから…。う〜ん難しいね…』

『………』

『儒学の教えで言うなら、自分がされて嫌な事は相手にも押しつけない、かな。それが男女の交わりの基本だろうね』

『…難しい本ばかり読んで知識を付けたんだね。子供の頃はやんちゃだったのに』

『…読書のきっかけは、君に振られてからだ』

『…そうだったね』

『…失恋は宿命だと思う。君のせいじゃないさ』

『………』

『…正直なところ、君が死んだというなら、俺も命を断って追い掛けたいよ』

『バカっ』

『…多田さん俺はね、まだ君の事が好きで好きでたまらないんだよ。こんなに好きになれたことはないのに…』

『…宮川君の愛情の強さは脱帽だけど、もうそろそろ私のことは…』

『忘れられるなら苦労はしないよ。俺はまだ君のことが…』

『…私はもういないの。お願いだから現実を見て』

『…くそっ、叶わない願いなのか…』

『…そうだよ』

『………』

『………』

『…けど死んだからといって、気持ちが消えるものでもないんだ』

『………』

『君が性的暴行を受けたというなら、俺が読書で学んだ事を文章にして世に出し、少しでも暴行事件がなくなるようにしてみせるさ』

『………』

『それが俺に出来る、最初で最後のプレゼントだろうね』

『………』

『…例え、文章下手で力弱くても…』

『…本当に不器用な性格なんだね。人間はもっと単純でいいのに』

『…精一杯、書いてみせるよ』

『………』

『…多田さん』

『…なに?』

『…せめて、生きていてほしかった…』

『………』

………………
………


〜集中治療室〜

『……、?』

夢から覚めたらしいな‥
周りには誰もいない…。

!、折り畳んだ紙が一枚あるのに気付く。
丁寧に開いてみる。

『………』

「私は家に居るから、目覚めたら携帯に電話して。〜友美〜」

電話するまでもないさ。すぐに帰宅するから。

両手に点滴を打っていて、手の動作が制限されている。
けど、ご丁寧に呼び出しボタンは押せる様にしてくれてある。

《カチッ》

『………』

寝てる場合ではない。すぐに男女の交わりについて、必要なエッセイに取り掛からないと。

《ガチャ》

『宮川君、起きたの?』
『調子はどう?』

医師も同行するとは、俺は重病人?

『大丈夫?』

『早速ですが、退院させて下さい』

予測していない突発的な発言に、言葉を失う両者。


『何言ってるんだ!、栄養もまだ不十分なんだよ』

『もう大丈夫です』

『一体、急にどうしたんだよ』

医者は訝しがる。
俺は医者を無視し、身体の調子を確かめた。

肉体的な運動はできないが、頭脳は通常に働く。
エッセイなら、座ってでもできる。

『退院しても、まだまだ動くことは出来ないよ』

『エッセイを書くだけですよ』

『エッセイ?』

『…今すぐ帰ります』

『では条件付きで。自宅から出ない事。毎日の通院を欠かせない事。約束を守れる?』

『わかりました』

…‥

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