シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
その時、ばさばさと音を立てて、銀の袋の中から紙が零れ落ちた。
「由香さん…何だか紙の束が雪崩れてきましたが…」
「由香ちゃん、何これ…?」
「ああ、師匠。これ…"あいつ"から。宿題だって。今度会う時、中身を教えてくれだってさ。半分は"あいつ"持ち。一緒に頑張ろうって」
"あいつ"とは…誰?
「"あいつ"は、最後まで師匠のことを気にかけていたよ」
玲くんは、由香ちゃんから手渡された紙の束を胸に抱いて、噛みしめた唇を小刻みに振わせていた。
何だか…その様子から判ってしまった。
"あいつ"とは――
紫堂櫂のことだ。
玲くんの心を大きく揺さぶるのは、彼しか居ない。
過去のこととか、"約束の地(カナン)"で見捨てようとしたこととか、普通なら確実に怨恨に至る感情を思慕に変え、ここまで玲くんに思われる紫堂櫂の存在が妬ましく…同時に羨ましく。
いや玲くんだけではない。
煌だって桜ちゃんだって、紫堂櫂のことを心酔していたはずだ。
そこまで紫堂櫂という人物は凄いものなのか。
そこまでのカリスマ性があるものなのか。
あたしにある紫堂櫂の記憶は、"約束の地(カナン)"の時のものだけだ。
怖いと思うくらいの荒々しさと、そして同時に…玲くんのように儚げさを併せ持ち、彼自身の輪郭がぼやけて曖昧に見えた。
あたしは基本、大切に者達を攻撃されない限りは相手を拒絶することはしないから、だから例え…紫堂櫂と瓜二つながらも、"極悪顔"の久涅でさえ、良い処は何かあるはずだと心を開いていたんだ。
少なくとも――
"約束の地(カナン)"を爆破させる前まではの話だけど。
そんなあたしが、出会ったばかりの紫堂櫂に拒絶姿勢を貫いたのは、その姿形が理由ではなく、偏(ひとえ)に玲くんを見捨てようとした薄情さを見せつけられたことが大きい。
しかし、それを玲くんが何とも思っていないのならば、あたしは紫堂櫂を拒絶する理由はない。
あたし如きがどんなに喚き叫んでも、どんなに紫堂櫂を詰って玲くんから遠ざけようとしても、揺るがない絆が…玲くんと紫堂櫂との間にあるのだから。
他人の第三者は、血よりも濃そうな従兄弟に立ち入れない。
だとすれば…これから、あたしが紫堂櫂を拒絶する理由は何もない。