シンデレラに玻璃の星冠をⅢ


――君も居たんだよ?


神崎家の隣家は、物心ついた時から空家だった。

しかし、玲くんはそこに紫堂櫂が住んでいたと言った。


それが真実ならば――

どうしてあたしに、紫堂櫂の記憶がないの?

どうして、あたしには…皆と同じような思慕の念は湧かないの?


いまだ紫堂櫂を思い出すと、心がざわめくんだ。

今まではそれを玲くんを苦しめた人という"拒絶感"だと思っていたけれど、それを無くしてしまったら、そのざわめきは…何と説明したらいい?


何だか怖い。

紫堂櫂に関わり合うのが。


だけど多分――



「"あいつ"は強くなろうと、皆を守ろうと必死だ。その中には勿論、師匠が含まれている。師匠も頑張らなきゃね、負けてられないものね!!!

5日以内に再会しようね!!!」


また会うことになるだろう。


ああ…煌や久遠ならば、今直ぐ会いたいと思うのに…紫堂櫂に関しては、再会に関して躊躇の念が色濃い。


人間として生きていたことは嬉しいと思うけれど、それ以上の感情を見出すことがあたしには出来ない。

心が動くまでの感情が育っていない。


「師匠。それからこれを書類整理したのはあの面倒臭がり久遠だ。あの久遠からの思いも託されている。師匠は…悩んで揺れてる暇、ないからね?」



あたしは…本当に紫堂櫂と幼馴染だったの?

煌以上の思い出があったというの?



――芹…霞ッッ!!!



だとしたら――

真実を告げた紫堂櫂を、あたしは突っぱねてしまったの?



良心の呵責から来る後悔。

訴えが執拗過ぎた紫堂櫂への恐れ。

あの…泣き疲れた幼い子供のような顔への憐憫。


あたしは――

何を持って、自分の記憶が正しいと思えばいいの?



――ゆっくり、思い出していこうね?



ざわめきだすんだ。

心臓辺りが。


何かに…亀裂を入れるかのように。


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