シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
俺が目を細めた時、緋狭さんのふさふさの手が、ぱんぱんと俺の足を叩いた。
俺は緋狭さんを抱き上げて、目線の位置を揃える。
「この塔の防御力を高める手段として、彼らは"妖蛆の秘密"の呪力を魔方陣に注ぎ込んでいる。ただ、それによる弊害を、玲が食い止められるか……だ」
「弊害?」
「ここには――玲の子供達がいる」
「あ!?」
煌が会話に割り込んで来た。
「ガキってなによ!? そんなこと、玲の親父は……」
俺は片手で煌を制して、緋狭さんの言葉の続きを待つ。
「この塔の防御力を増幅させていたのは、こうした呪力だけではなく……電脳世界からの力があった。電脳世界全体としての意志ではなく、Zodiacのように独自の意志を持つ存在からの力、いわば別口の電脳世界の力だ。
玲でも自在の制御は難しい電脳世界の力を、電脳世界の意志を読み取れぬ玲の父親は制御出来ない。そこで思いついたのは」
「人の言語を理解できる存在を媒介に……ということですか?」
緋狭さんは頷いた。
「こちら側の言語が通じるとなれば、かなりの知能がある状態……ですよね。生育しているのですか?」
「……。ああ。ただ……
画面越し、だ」
白ネコは、目を細めてニャアと元気なく鳴いた。
「それは、画面の奥に棲んでいる……ということですか?」
緋狭さんは頷く。
「ど、どういうことだ?」
「……。電脳世界で生きているということだ。Zodiacのように」
「は!!?」
「それについて、玲が許容出来ればいいが……」
俺は、優しくて美しい従兄を思い出す。
正直、俺に甥や姪が突然いると言われても、俺としても複雑で。
しかもそれは人の形をしておらず、玲が望んで生育された子供でもない。
だけど玲の子供ならいいかと思う心もある。
俺としては、玲が納得するのならそれでいい。
だが玲はどうだろう。
どんな経緯や方法で子供が画面の奥にやられたのかはわからないが、自らの子供が普通の人間ではない形で生存していることを知った時、繊細な心を持つ玲はそれを受け入れられるだろうか。
今以上に、傷つかないだろうか。
父親に愛されない自分を重ねて、絶望感に苛まれれはしないか。
今は心臓発作のないリスの姿とはいえ、その精神は玲のもの。
玲の悲しみを想像すればこそ、傍にいてやりたい心地になる。
「……坊、玲は弱くはない」
そんな俺の心を見抜いたように、緋狭さんの尻尾が俺を宥めるように腕に絡んだ。
「だから見てみよ……玲は来ぬわ。間抜けなリョクは……玲と共に最上階にいたのだろう?」
ネコが促す先――。
空間に現われたのは、緑皇を背負った睦月だった。