シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「やばっ。おばあちゃんがこっちに来るよ、うわわわわ」
狼狽える睦月をよそに、夢路は泰然とこちらに歩いてくると、睦月の胸の上に座る招きネコの前に立った。
ばちばちという火花の散る音が聞こえてきそうな、緊張感。
囚人であった緋狭さんが禁を破ったことに対し、夢路はどうするつもりなのか。
元より、緋狭さんと夢路がどういった関係にあるのか見えぬだけに、対峙がやけに不安になる。
仮に緋狭さんがこの世界において咎人であろうと、今は非常事態だ。
俺はなんとしてでも夢路を説得するつもりでいた。
裏世界の崩壊を食い止めるためには、彼女……いや、このネコが必要なのだと。
夢路が鋭い目を緋狭さんに向けた。
俺も煌も思わずごくりと唾を飲み込んだ時、緋狭さんが鳴いた。
「ニャア?」
招き手で、小首を傾げる可愛らしいネコ。
それは夢路の怒りを買うかも知れない、確信犯的な危険な仕草で。
度胸ある剛胆な緋狭さんだから出来る挑発。
いつもの如く、俺達はただはらはらとして成り行きを見守るしか出来ず。
そして、黙したままの夢路は、緋狭さんに手を伸ばし――。
「可愛いっ!!」
抱き上げたネコのふさふさな顔に、頬ずりを始めた。
「可愛い、このネコちゃんっ」
それは御年三桁とは思えぬ、初々しすぎる幼い反応で。
毒牙を抜かれた俺達は、呆然とした。
「ふさふさだ~。可愛い、オスかな、メスかな~?」
「シャーッ!!」
緋狭さんは血走った目で、防御本能の赴くままに夢路の手に爪をたてる。
「ひっかくなんて、随分とやんちゃだね。いいもんね~。はいっ、ちゅうっ!! はい、もう一回ちゅうっ、ちゅっちゅっちゅ~。あれ、止まらない。じゃあ最後に、とびきりでっかい、ぶっちゅう!!」
驚愕、嫌悪……。
その時の緋狭さんの顔をどう表現したらいいだろう。
人間の……緋狭さんの片腕を切り落とさせた、あのにっくき藤姫の顔を持つ女が、緋狭さんと連続キス。それも最後はとびきり大きいものらしい。
「うわ……緋狭姉、白目剥きかけてねぇか?」
「ああ。なんだか気の毒だ。艶を無くした白いふさふさが、逆毛だってる……」
「なぁ、こけしは緋狭姉と、気づいていると思うか?」
「いや……気づいていないだろう、たぶん……」
唖然半分、同情半分。
俺達は引き攣った顔で、小声でこそこそ会話する。