シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「ネコちゃん、ネ~コちゃんっ!」
夢路の緋狭さんの可愛がり方は、まさしく"猫可愛がり"。
そのふさふさの毛並みに顔を埋めてみたりと、実にうっとりと嬉しそうな顔。
動物は癒やしの効果はあるが、これは癒やされすぎだ。
この世界の長としての凜然とした風格が見られない。
まさか夢路がここまで豹変するとは……。
俺達同様、そうした夢路の反応が来るとは思っていなかったらしい緋狭さんは、依然招き手のまま引き攣った顔つきで硬直し、心なしかふるふると震えたその潤んだ瞳が、俺達に向いて哀切な光を宿す。
「こ、これ……助けぬか」
実に弱々しい、泣き出しそうな声が聞こえた。
「ネコちゃん、はいゴロゴロ……。気持ちいい?」
「気持ちよくなど……ニャ……ァン」
子供のような純粋な笑みを湛えた夢路が、ひたすら緋狭さんの喉元や腹をなで始め、それに対して目を震わせた緋狭さんが、ネコとしての快楽に負け……甘えるようなネコ声を漏らし始めた。
「……ドSな緋狭姉が、喘いでる?」
「……煌。ネコの本能が強まっていると言え」
「知らなかった……。おばあちゃん、ネコ好きなんだ……。リスは無反応だったのに。我慢してたのかな?」
夢路は、自分のものとでも言うように、くったりとした緋狭さんを両手に大事そうに抱えると、上気した顔で俺達を見た。
「これを、貰っていいか?」
俺達を見る夢路の顔は、以前の大人びたもの。
「どうぞどうぞ、煮るなり焼くなりお好きに。イテテテテ……尻尾! その尻尾!」
凶器のままであったらしい尻尾は、煌の指に絡んで手の甲側にぐいと引っ張った。
「緋狭姉っ!!」
「ヒサネェ……?」
夢路の顔が訝しげに歪む。
「……森に閉じ込めた、あの手のかかるじゃじゃ馬娘と、似た名前だな」
殺気すら漂うその様子に、緋狭さんはここでなにをしでかしたのか、そしてそんな緋狭さんを単なる"じゃじゃ馬娘"と形容できるだけの立場にいる夢路との関わり合い方を聞いてみたい気もするが、そんなことを口に出せるような雰囲気でもなく。
「……煌。なぜ名が"ネェ"なのだ? それは表世界のルールか? 異国の者か?」
「そ、それは……」
「ヒサという名前の由来はなんだ? まさかこのネコ……」
「お、おばあちゃん、私もびっくりしたんだけど、偶然にもそのネコの名前は、おばあちゃんにいつも噛みつくあの貧乳と同じヒサっていう名らしく……そこのオレンジのイヌが慕う姉御のような存在らしくてさぁ……。お姉さんだから"ヒサ姉"って……」
狼狽する煌を庇うように、半ば正解の苦し紛れに放たれた睦月の言葉は、
「煌の姉ならば、妾の孫だ。そうか、ヒサというのか~」
いとも簡単にあっさり信じられたようで。
大体ネコを姉と慕う煌に、疑問はわかないのだろうか。
「なぜ私が、夢路の孫に……」
「俺が緋狭姉と姉弟になる時は、芹霞と結婚してなりてぇよ」
「ふぅ……。貧乳に、貸しひとつ」
それぞれ思う処はあるらしい。
睦月が恐れるほど、夢路が罪人に対して施す罰というのがどんなものかを知りたい気にもなったが、ここは夢路のネコ好きのままで隠し続けた方がいいかもしれない。