シンデレラに玻璃の星冠をⅢ
「夢路、こら夢路!!」
「ヒサちゃんもニャアニャア喜んでいる~」
夢路を見ていると、彼女だけは不思議と緋狭さんの言葉はわからないらしく、純粋なネコ語(?)として耳に流れてくるらしい。
そんな様子を複雑な顔つきで見ている孫ふたりが、祖母の方を向いたままで会話している。
「こけし……どうしてあのチビリスの言葉はわかって、ネコの言葉はわからないんだ?」
「おばあちゃんの、溺愛の程度が違うからなのかも知れないね……」
「溺愛恐るべし。名前よりもっと確かな声音聞いても効果ねえなんて。愛は盲目というより、こけしの場合……耳の聞こえねえ聾(ろう)なのか?」
夢路は赤い模様がある袖を引き裂き、その布の端切れで、緋狭さんの首に結んだ。
あっという間に、白いふさふさネコの首に粋な赤いスカーフがつけられ、美ネコは凜々しく飾り付けられた。
満面の笑みを浮かべた夢路は、緋狭さんを両手から離そうとしない。
さすがの緋狭さんも根負けしたのか、ぐったりしたまま……本当の人形のように夢路になされるがままだった。
意外なところに、最強と言われる緋狭さんの弱点はあるもの。
彼女は過度の溺愛には慣れていないらしい。
緋狭さんを懐柔させたくば溺愛すればいいのかも知れないが、ネコ姿であればともかく、人の緋狭さんもいかに美しいとはいえ、果たしてそんな無謀な命知らずなことをする男はいるのだろうか。
――あはははは~。
「どうした、櫂? 首さすって……痛いのか?」
心配そうな褐色の瞳が俺を向いている。
「いや……。氷皇の声が聞こえて、首に鳥肌が立ったんだ」
「あいつの声!? そりゃあ鳥肌もんだよな」
そんな時だったんだ――。
「うっ!?」
「ニャッ!?」
師弟が、両耳を押さえて顔を歪ませたのと同時に、俺と睦月は目を細めてあたりを見渡す。
きーんという、超音波のような音が響いてきたからだ。
だが俺も睦月も、煌や緋狭さんのように耳を塞ぐほどのものとは感じていない。
ただ異質と感じるだけの、許容出来る範囲内の可聴域の高音だ。
黒装束の者達も騒ぐこともなく、ひとり――夢路だけが、冷ややかに俺達を見ていた。
「ようやく、時が満ちてきたか」
ゆっくりとその口元に弧を描いた夢路を見て、俺はそれに訝った視線を返した時、煌が叫んだ。
「おいおいおいおい、やばくねぇか、櫂。
これ……黒い塔が出てくる時の音だぞ!?
それともうひとつ。まだ不安定だがする音、それは……」
煌は険しい顔で言った。
「"約束の地(カナン)"で魔方陣爆破される前に響いていた音だ!!」