カプチーノ·カシス
「ありがとうございました。本やネットで調べた知識と、実際に目と耳で体感するのとでは、やはり違いますね」
ここの開発チームの責任者、尾崎課長が俺たちに頭を下げた。
彼も元々はうちの工場で働いていたので、俺は顔見知りだ。
「お役に立てて良かった。とりあえず一通り教えましたが、何かまだ聞きたいことはありますか?」
「いえ、教えられたことを頭に叩き込むのに精一杯で、何を聞きたいのかも今の時点ではさっぱりです」
おどけたように言う尾崎さんは、気さくで愛嬌があり、部下たちにも慕われているようだった。
これなら、このチームも上手くいくだろう、と俺は微笑む。
「ところで吉沢さん、どうですか今夜一杯。同じ開発担当として親好を深めましょう。もしよければ、武内さんも」
願ってもない提案だった。
彼女と二人きりになるのを避けられる。