カプチーノ·カシス


結局何も言い返せぬまま昼休みは終わり、工場に用があるというハルと別れてあたしは一人、開発室に戻った。

室内では課長と石原がなにやら雑談中だったけど、あたしは特に気に留めず、午後の風味チェックに備えシンクで歯を磨いた。


「へえぇ、いいなぁローストビーフなんて」

「料理は昔から得意みたいでね、うちのクリスマスは毎年それなんだ」


不意に耳に入ってきた、二人の会話。

課長の、奥さんの話か……

あたしは素知らぬ顔で、シャコシャコと歯ブラシを動かす。


「結婚する前は、クリスマスどんな風に過ごしてたんですか?」

「え? 別に……外で食事するくらいだよ」


課長があたしに遠慮しているのが分かる。以前はもっと嬉しそうに夫婦仲が良いことを自慢していたのに。

……それにしても、絶対に石原はわざと聞いている。

あたしや課長の反応を窺って大阪でのことを探ろうとしてるんだろうけど、いい加減、放っておいて欲しい。


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