違う次元の迷子センター
引いてから、ちょうど私の後ろを歩いていた通行人にぶつかりそうになり、寸でのところで慌てて避けた。狭い道を途切れることなく行き交う人の波に、道のど真ん中に立ち止まっていては邪魔になると、ヨシュアたちに倣って道端に寄る。
 それから改めて例の子どもの顔をまじまじと見てみたものの、やはり見覚えはこれっぽっちも、と言っていいほどなかった。このくらいの子どもの年のころなんて私には判断がつかないけれど、背丈でいうと子どものヨシュアの腰止まりで、当たり前ながら小さい。幼稚園……とかそのくらいかなぁ。
 文字通り顔だけを覗かせたその少女は、おずおずと身を隠すようにヨシュアの脚にぎゅっとしがみついている。肩の辺りで切りそろえられた細い髪が、不安を湛える瞳と共に頼りなく揺れた。
「……隠し子?」
「面白いことを言うね、梨恵は」
 思わず口をついて出た言葉に、ヨシュアは楽しそうにくすくすと笑いを漏らす。
「残念ながら僕の子じゃないんだけどね。ママ、ママ、って泣きながらうずくまってる子見たら、放っておけないでしょ?」
 なるほど。
「だから迷子センターか」
「そ」
 ヨシュアの右手がすっと持ち上げられて、少女の柔らかな髪を優しく撫でる。すっかりヨシュアに懐いているらしく、不安げに瞳を揺らしていた少女の表情がすぐに嬉しそうなものに変わった。ヨシュアのその恭しい手つきを見て、どうやって手懐けたのやら、なんて少し面白くないように思ったのはどうしてかなんて、その時の私に分かるはずもない。
「へぇ。でもそっか、梨恵にもちゃんと見えるんだね」
「見える?」
 ヨシュアのおかしな物言いに思わず首をかしげた。すると私の訝しげな様子に気づいたのか、ヨシュアはすっと一歩横に身を引いた。
「こういうこと」
 
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