tender dragon Ⅰ
…希龍くん…?
立ち上がろうとした。
でも、違ったら?
希龍くんじゃないなら、きっとあの足音は狂羅の人のもの。それを考えると、立ち上がれなかった。
あぁ、前もあったっけ、こんなこと。
初めて希龍くんと会った日。
今日と同じように祈ってたのを覚えてる。近づいてくる足音に、期待と不安が膨らんだのも。
あの日と同じ状況が、また訪れるなんて。
―コツ、コツ…
シーンと静まり返った図書館の中。息をするのも怖かった。聞こえてしまいそうで。
お願い…
…希龍くんでありますように!
「…いた」
目を瞑ってても分かる。
あたしの上にかかった、大きな影。
そして聞こえた、低い声。
あぁ、やっぱり。