tender dragon Ⅰ

入ってすぐに、あたしは葉太に手を引っ張られた。葉太の後ろに隠される。

心臓がバクバク音を立てた。


蒼空くんは横たわっていて、ここから見ても分かるくらいに傷ついていた。

苦しい筈なのに、なぜか蒼空くんは笑ってるように見えた。

……やっぱり希龍くんの弟だね。


「うちの弟、返してもらおうか。」


シーンとした空間の中に希龍くんの低い声だけが響き渡る。

狂羅の人達は何も言わずに希龍くんだけをジッと睨んでいた。


希龍くんが「葉太。」と言うと、葉太は横たわる蒼空くんの元へと歩き出した。


コツ、コツと響く足音。

それ以外の音なんて聞こえなかった。


「中学生が無理してんじゃねぇよ。」

なんて言って、蒼空くんに肩を貸す。


狂羅の人たちが葉太を止めないのはきっと、目的が希龍くんにあるから。

希龍くんを潰すことしか考えてない。

だから、みんな希龍くんから目を離さない。ずっと睨み付けたままだった。


「うちの春斗やったのも、お前らだよな?」

強い口調。普段の希龍くんからは考えられないくらい、低い声だった。

< 388 / 428 >

この作品をシェア

pagetop