風に恋して
リアが研究室に入り、奥の部屋へ進むと治療台の上にたくさんの球体と濾紙が散らばっていた。そのどれもが、完璧に分離している。

「すご、い……こんな、短期間で?」

リアが思わず声を出す。治療台の側の椅子に座っていたセストは立ちあがってフッと笑った。その笑顔には少し疲れが見える。

「リア様の頼みとあっては、手は抜けません」

セストの言葉にリアも微笑む。しかし、すぐに真剣な顔に戻った。

「では、次のステップですが……」

リアは治療台の上の球体と濾紙を再びくっつけて、くしゃくしゃに握りつぶした。でこぼこの歪な球体ができあがる。

セストの笑顔が引きつったように見えた。

「残念ながら……人の記憶がキレイな球体であることはありません」

これでもまだシンプルな形だと言える。

「今回は偽物の記憶を消す呪文もお教えしますから、同時に練習してください」

そう言って、リアは球体のひとつに手をかざした。すぐに球体と濾紙が分離し、濾紙が浮かび上がる。
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