風に恋して
「ディ・フジョーネ」

リアが呪文を唱えた瞬間、パッと濾紙が跡形もなく消えた。セストはそれを遠くの出来事のように感じた。

簡単に見えたけれど、気の練り方も、集中力も並大抵ではない。事実、一瞬の呪文であったのにリアの額には汗が滲んでいる。

「チャクラを擦り合せるように濾紙に入れるんです」

チャクラとは医療用語で気のことを差す。

セストは頷きながらも、改めて記憶修正の難易度に驚いていた。

理論的なことはリアが記憶操作されているとわかった時点で頭に詰め込んでいた。それでも知識と実践はまったく異なる。

元々器用なセストだが、球体と濾紙を分離させるのにこれでもかなり苦労した。執務の合間、睡眠時間を削っての鍛錬。ようやくコツを掴んだと思っていたが、甘かったようだ。

「無理を言っているのはわかっています。でも、貴方しか頼める人がいないんです。お願いします」

リアは呼吸を整えながらセストに頭を下げた。セストは力強く頷いて、早速鍛錬を始める。その横で、リアはセストに気の練り方などを丁寧に教えてくれた。
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