風に恋して
動かなくなった目の前の男の側に剣を落とせば、ゴトッと鈍い音がした。

特に何の感情も沸かなかった。いや、安心……というのだろうか。これで、ヒメナも自分も解放されたのだ。

「母さん、母さん」

放心状態でベッドに仰向けになったままのヒメナの身体を揺する。

「母さん?」

ヒメナの身体を起こしてやると、ヒメナの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。

「ぅぅ、っ……オ…………」
「か、あさん?大丈、夫?」

おかしい。ヒメナには自分が見えていない。いつも優しい眼差しをエンツォに向けてくれるその瞳は虚ろで、エンツォを通り越してその後ろを見ているような……

そして、ギュッとエンツォのシャツを握る。

「どうして、どうしてなの?」
「母さん?」
「オビディオ様――っ」

そう、叫んでヒメナの身体の力がガクッと抜けた。

「母さん!母さん!」

オビディオは、ヴィエント国王の名前だ。そしてヒメナの妹であるマリナの夫。その彼がヒメナを?それなら自分は、彼の……?それなのに他の男に嫁ぐのを黙って見ていたと?

遊び、だった……?妹が本命だった?
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