風に恋して
「イヴァン、もういいよ」
「え、でもこのままじゃ傷が残る。もう少しだから大人しくしていて」

イヴァンはそう言って、トラッタメントを続けていく。

「でも、すぐにリア様の記憶修正をしないと」
「それなら私もお手伝いしますから!」

風が止んで水のベールを解いたエレナが、セストのベッドに近づきイヴァンと同じように彼の背中に手を当てた。

ついでに起き上がろうとしていたセストの頭をボスッと枕に戻す。背中の治療のためうつ伏せになっていたセストは「ぶっ」と言って枕に顔面直撃した。

それが面白かったのか、風がくるくる吹いて『きゃはっ!』と笑い声が響いた。

セストははぁっとため息をついてから、顔を横向きにする。

「君……水属性だね?」
「ディーノ兄さんに呼ばれてきました。妹のエレナです」

エレナは張り切った様子で名乗ると、呪文を再び唱える。

「ごめん、人手が足りなくて……マーレから呼び寄せたんだ」

ディノはマーレ出身のクラドールだ。確か妹はまだ研修生のはずだが、トラッタメントの技術は申し分ない。イヴァンやディノの監督下にもあるので特に問題はない。

ちなみにディーノというのはマーレでの発音。ヴィエントではディノとなる。本来の読み方をして欲しいという者もいるが、ディノはあまり気にしていないらしい。というより、いちいち訂正するのが面倒なようだった。

「そう、構わないよ」

重傷の2人と精神の壊れかけたリア、更に荒れ狂う風の子の対応。それを2人で対応するのは荷が重い。

フッと息を吐き、セストは大人しくトラッタメントを受け続けた。
< 256 / 344 >

この作品をシェア

pagetop